「いったい貴国は我が国をなんと心得ておられるのか」

女王の御前で居丈高な物言いをするのは、隣国の大使。

「我が塙王はありがたくも、ここを貧しく何もできぬ女王の国と哀れみ我慢されておられたが、最早それも限界。
たびたびおんぼろ船団を青海の我が領海内に立ち入らせ、あやしげな荷のやりとりで小銭を稼いでいるのは目に余る行為である。
おかげで我が国の商船の稼ぎはこのところどんどん減ってゆく一方。
しからば今度そちらの船を見ることがあれば容赦なく発砲するがよろしいか」

それを聞いた慶国女王は一度顎をぐいと上げて紅い髪を後へ振り払ったが、すぐに顔をかしげてさも申し分けなさそうな笑顔を作り大使に言った。

「それは申し訳ない事をいたしました。
お言葉通り何も分からぬ女ゆえ、船で行ってくると言われても、どこへ行ったかもよく分かっておらず。よもや塙王にご迷惑をおかけしていたとは思いもよりませんでした」

そしてにっこりと笑うと、大使も忌々しげにフンとするしかなく、そのままどかどかと部屋を出ていった。

それを見送ると、女王は前を見たまま背後のカーテンに声をかけた。

「本当に困った事をしてくれた。あの国を怒らせたら我が国がやって行けぬとは判らぬか。こんな愚かな家臣をどう罰せばよいのやら」

「どうぞ、陛下のお心のままに」

柔らかに響く声と同時にカーテンから現れた人影の手が伸びて、女王の首に首飾りが巻き付いた。
女王の髪と同じ色の大きな紅玉がその中央にひとつ。

「こんなもので罰を逃れようとするのか。愚かな」

「本当に愚かでございます。愚かゆえ、ではさらに」

そう言うと次の首飾りが重ねられた。今度は女王の瞳と同じ翠玉が中央に三つ。

「こんなものでは決して許さぬ」

そう言う喉元にはさらに次々と宝石が重ねられた。
そしてそのまま背後の手は白い肩からからそっと女王の腕を滑り降り、その細い手首を持ち上げるとそこにも宝石を巻き付けた。
そして女王の前にまわって跪くと、両の手をとり全部の指一本ずつに口づけを落としては指輪をはめた。

「これでは隣国が怒るはず、本当に困った男だ。こんなに証拠の品があっては重罪過ぎて罰し方も思いつけないではないか」

「では、いかがでしょう。虚海の彼方にあるという蓬莱には、これらとは比べものにならぬほど金銀宝石が埋まっているとか。陛下にお似合いの香料もきっと見つかるかと思います。
その領土を捧げたらお許し頂けますでしょうか?」

「くっくっ・・・いったいお前のその強欲ぶりはどこまで続くのだ」

「はて、私は首飾りなどいくら持っていても身に着けようもございません。
ただ御身を飾るだけのために集めておりますが。
それとも、宝石にも香料にももう飽きてしまわれましたでしょうか?」

男は さらりと言うと、その怜悧な顔をさも残念そうにしかめた。

「ああ、たしかに飽きることはない。
このおかげで我が国は豊かになりつつある」

「では、我が罪はお許しいただけるのでしょうか?」

「そうだな、罰したくないが、このまま許すこともできない。
一応隣国の顔も立てなくてはいけないからな」

そう言うと、宝石の絡まる両の腕を差し出し、跪く男の顔をとりその顎を上げさせて赤い唇を寄せた。

国で一番の重罪人に与えられた刑は、この赤い唇に捕縛される極刑でその刑期は一生。

男はひれ伏し粛々と刑を受け入れた。

・・13℃さま サイト開設一周年への捧げ物 2004年5月