◇◇◇とりとめなくですが、まずはお礼を◇◇◇
長い長いストーリー、しかもあまり書かれることのない月渓にオリキャラのよりにもよって妖魔などという主人公で書くというのは、読む方にもさぞ大変だったかと思います。読んで下さった皆様、そしてたくさんの感想や励ましを下さった皆様に心から感謝致します。
これは「十二国奇談」と勝手に名付けている非人間との出会いのシリーズの一編です。もちろん短編になるはずでしたが、行き詰まっていた別の長編(麦の花)と対比させ競わせているうちにどんどん長くなってしまって。
初めての長編で、もちろん仕上げるまでにはいろいろあったのですが、書く上での苦痛というのが全くなかった作品でした。ただ書いたのが日中35°という七月の猛暑のさなかで、いくら妖魔といえど、そして月渓までがやたら裸になり(しかし色っぽくない)湯殿ばかり出てくるのはそのためとお目こぼしを。
◇◇◇月渓の長編◇◇◇
ちょっと出来すぎのキャラで悪役も出てこないし手ぬるいと思われるかもしれませんが、同時進行の作品が屈折したキャラばかりで暗い作品だったのでその反動ということもあって。
元々、月渓は興味のあるキャラクターでどうしてもっとSSがないんだろうと残念に思っていました。月祥も好きですが、彼自身をもっと読みたいなと思って。原作者も浩瀚よりは月渓の方がよほど興味があると思えるのに。
ただ、実際に書こうとすると祥瓊かその父王あたりにに負ぶさったものしか思いつけず、ましてこの時期の芳の長編となれば、オリキャラを山積みしないと書けそうにありませんでした。なるほど祥瓊の添え物の短編しかないはずだわとよく分かりました。
それでも彼を自分の楽しみだけのためにとりとめなくいくつか書いて遊んでいました。
そんな中で突然この話がひらめき、一気に三日で十編書き上げ一応完結しました。(その後しばらく手が使い物になりませんでしたが。)おまけにその日は頂き物の氾王イラストから何か書くつもりで半日うんうん言っていたので、最初の章の妖魔がえらく態度がデカくなり無口でもないし(藍滌サイズの態度に言葉)書き直しに苦労しました。
◇◇◇妖魔の設定について◇◇◇
異質なものとでも、互いを完全に受け入れ合うというのを書きたかったのです。そして一番異質なものということで、妖魔としました。
いくつもの終わり方を用意していましたが、どうかなと思っていたものを結局使うことになりました。ただでさえオリキャラを主役にしているので、その上に妙なオリジナル設定は加えたくなかったのですが。途中からラブラブにしたので、♂ではまずいということで、なぜか妖魔ちゃんとまで呼び名を戴いたヒロインのかわいさに免じてお許し下さいませ。
十二国記版「みにくいアヒルの子」もしくは「ローマの休日」です。
本当はこの妖魔はシンプルにやはり妖魔としておきたかったし、その流れでも書いていました。一番明るかったのはそのパターンで、たとえば王でなくなった月渓と妖魔が組んで妖獣狩りになろうと、凸凹コンビが笑いながら黄海へ去るというものとか。♂なのでラブラブはなし。
月渓の命乞いのために自分が宝重になるというのもありました。
そして無条件に互いを受け入れあうものが書きたかったので、カップルでも書いてみたいなと抜け道を考えた時に出てきたのが、この霊獣という禁じ手でした。
神獣は雌雄があり、妖魔妖獣は牡だけ。じゃあその中間にある霊獣ならどうかと調べ始め、玄武などとセットのなかからこの天乙を拾いました。玄武などは天化した場合雌雄があるのです。ここでは霊獣は幼体と成体があるとして、幼体は雌雄未分化で、形も不安定なので適当に作れるんじゃないかとこれは全く勝手にでっち上げています。五山に行くと大小の真っ黒黒助が、あちこちでぷかぷか遊んでいるのかもしれません。
とにかくこの妖魔ちゃんの正体というか種族はずいぶん捜して、中国の妖魔から○○娘々神(女神の名称)というのまで読みあさったのですが、どれもいまいちピンと来なくて。結局天乙としました。
天乙というのは、玄武、青龍といった十二神将のトップで、名前も天一、天乙、貴人、天乙貴人などいろいろなのですが、吉祥の神で女性であることは共通しています。特に天女の別名もありと読んだ時はしめしめと思いました。
この作品で書きたかったことのひとつが、異種のものとの交わりだったし、そしてその代表は天女伝説ですから。
なみに天乙の本性は白蛇らしいのですが、ピンクのドラゴンなんてどうでしょう。けばけばしいピンクじゃなくて上品なコーラルピンク。
◇◇◇結末は?◇◇◇
で、終わりはどうなるのかというと、これはもうみなさまのご自由にということで。
妖魔が出てきて涙の再会かもしれないし、再会はなしで月渓は慶へ行って浩瀚にこき使われるのかもしれない。あるいは妖魔の事を気付かないままそのまま黄海へ留まるのかもしれない。
おじゃま虫のアニキに邪魔されなくても、気付いていても妖魔は出てこない可能性は大だと思います。人の世界で生きることが月渓の幸せと知っていますから。少なくとも月渓から自分の立場と職務に忠実にあれと学んだ天乙なら、今の仕事を捨てることはないと思うのです。
醒めた見方をするなら、仮王だったから相手は妖魔がよかった。あるいは妖魔時代ならともかく今は責任もある立場なので、そちらを優先。二人の繋がりはいわば両方の人生のひとつの時代でのみのもの。だから今後は別々の人生をとる。
月渓を次王にというのが多い意見かと思いますが、王を幸せとは思えない私には、月渓に自由をプレゼントしたかったのです。どんな地位より彼にはそれがいいだろうと。
それは、これと対に書いていた作品との対比という意味もあります。そちらは浩瀚が最後に乱に成功して冢宰になる、という本来の変えられない結末。国を追われた月渓と、トップにのし上がった浩瀚。一見不幸な男と成功した男のようですが。これから慶と王に縛られ、それまでをどんなにがんばっても最後は王が斃れ国が荒れるのを見るしかない浩瀚が果たして月渓より幸せなのか。
この作品自体が国も人物も沈んでゆく一方なのに、メルヘンにお気楽に明るく書いたのは、このもう一方のシリアスな作品との書く方の都合のバランスのためでした。結末の分かっている暗い話に対して、先にどんな可能性もある自由な結末の話を書きたかったということです。
別作との対比という意味では、あちらが互いに背負うものがありすぎて、素直になりあえないカップルなのに対して、こちらは何も持たない相手同士が寄り添うお話でもあります。ただただ純粋に愛し合うカップルが書きたかったということで。
でも、天乙の伴侶となる月渓もありと思っていろいろ想像して遊びました。
意外とあちらで求められる人材かもしれないので、就職には困らないかも。たとえば、峯麒の結果に満足した玉葉に頼まれて、蓬山公の実務の師匠となるとか。さらにすでに生国に下った麒麟の再教育プログラムも作ったりして。なにしろ不出来な麒麟振りを見せたらばっさりという実績がありますから、どんな麒麟も逆らわないかも。
あるいは遠距離カップルとなって、長期休暇ごとに、慶まで青龍がお迎えに来るとか。(おにいちゃん、暇だし近いんだから行ってきて、と妹の彼氏をお迎えに行かされるアニキ、結界張ったしっぺ返しがコワイ)
やっぱり貴方でしたと峯麒が二王目をうれしそうに迎えに来るとかはやめて欲しいですが、そんな風にその後の妄想を書き連ねるときりがないのです。
もちろん途中の書きかけのエピソードもまだいくつもありますので、これからも少しずつ書き足してまだ楽しめるかなと思っています。冢宰小庸やあの女官が妖魔の正体に気付く出来事があるという設定なんかも楽しかったです。
長い本編の上にさらに長いあとがきまで読んで下さってありがとうございました。
たま