彼女の蕾を開かせたのは、確かに私ではないだろう。
しかし、その大輪の美しさを寄り近くで見ているのは、私だ。
なのに、どうしてこんなに心苦しいのだろう。
My Beautifl Woman.
夜の帳がすっかり落ち、闇を彩る明りが美しい。
金波宮は、客殿に迎え入れられたお客人により浮き足立っていた。
この国の女王、陽子を登極前から支えた御仁である。
その容貌は、女性官吏にも男性官吏にも好まれるもので、官吏たちは彼の世話を任される事を非常に喜んでいた。
「今日は、景麒と二人でお持て成しするから」
極々身内のように接したいという言葉に、酷く切なくなる。
まるで、阻害されているようだ。
いや、確かに区別されているのだろう。
自分は、彼女の苦労を全く知らない状態で出あった様なもの。
想像は出来ても、直面していた人との差は出てしまう。
苦しみ、のた打ち回る辛さを、傍らで、彼方で、その時を案じながら支えていたのは彼ら。
確かに私は、それをしらない。
彼女を、より孤独へと引き離した人。
彼女に、より現実を突きつけた人。
彼女に、確かに理想を教えた人。
では、私は彼女に何を、教えられるだろう?
あの「主上至上主義」の麒麟からして、彼の人と話すことは楽しいのか。
彼女と彼のちょっとした親密な雰囲気が流れても、顔を顰めることなく、寧ろ優しく見つめる事すら、している。
――認めて、いらっしゃるのか?
離れた場所で、しかし何か必要なことが生じた時のために控えていても、それは確りと分った。
いや、今の慶東国で「必要なこと」が急に起きることなど有り得ないのに、勤めをでっち上げているだけであろうか。
貴女は、私にその笑顔を向けてくれない。
(その柔らかな微笑は、彼の人のものだ)
貴女は、私にその細腕を伸ばしてくれない。
(その優しい抱擁は、彼の人のものだ)
貴女は、私に―――。
全ては、彼の人のモノかもしれない。
だけど、今、この時より、貴女の傍近くで見つめることが出来るのは、私だ。
今、貴女の傍にいるその男ではなく、この時が終り、貴女の傍を離れるその男ではない。
終りある日に、その傍近くにいるのは、私だ。
でも、その話は遠くへと向けてしまうのを許していただきたい。
そんな悲しい想像は、したくないのだ。
いつか、貴女の瞳に映るのが、私であるように。
今は、彼の人の歓待に、心を砕きましょう。
こうやって、貴女を思い浮かべるだけで、いつも呼吸が苦しい。
なんと言う苦しみを与えるのでしょう。
――私の、美しいひとよ。
《了》