主上の朝のお支度をお手伝いしながら、わたくし何か見落とした事があったようで気になっておりましたの。何かしらと思いながらも、このめでたき朝に何を着て頂こうかと、そればかり夢中で考えておりましたのでつい後回しになっていたのでございますが。
でもいつも通り朝議へお送りしてほっとしたところではたと気付きましたの。
主上、なぜ御寝所にお杯がふたつ、それも肴まで添えてございましたの?
主上……昨夜はもしや、念入りに準備されたことではございませんでしょうね。知らなかったのは私どもだけなんて事はございませんわね。
ええ、まあここで待っていてもこの山をよじ登ったり雲海を泳いで通ってきてくれる殿方なんてそうそう居りませんので、それは…まあよろしいんですのよ。
問題は…あの代わり映えのしないオネマキ。
なぜ肴の準備をする余裕があって、私のあのすばらしい勝負服コレクション(こほん)に出番をお与えにならなかったのでしょうか。(え、それは何かって、あわわ、何でもよろしいのですのよ。)
そして、なぜか私の女官歴うん十年(私の歳は三桁越えるとそこはクリアされるんですの、おほほ)のカンが、訴えますの。
うぶな主上がこんな事をなさるにあたっては、どこかのすれっからしが、いえ経験豊かな年長者が知恵を付けたのではなかろうかと。
え、内緒?
まあ、内緒とおっしゃるならそれもよろしいですが、おそれながら苦情を申したいのは、でも、それならなぜ、そやつはお召し物の事で一言助言をしなかったのかということでして。
ええ、こうなれば、畏れ多くも主上に文句など申し上げる事は出来ませんので、主上のお召し物命のわたくしの長年のとっておきの夢と楽しみを壊した手抜きなお節介者、いえ行き届かぬ助言者が誰かを何が何でも探り出して、それ相応のお仕置きをして晴らしたいと存じます。それがどんな相手でも容赦はいたしませんわっ。
主上にあらせられましては決して口出しとりなしなどご無用で願いますわね。
さ、ところで今宵も…でしょうか?
これからは夜のお支度も何かと手が込んでまいりますのでお早いめに奥へお戻り下さいましね。女官一同これからいっそう力を尽くしてお仕え致しますので。