浩瀚さんは主上と一緒にお仕事をするために堂室の扉を開いた。
すると、
くっ、くっ、という少女の笑い声が聞こえた。
はて?
さては、延台輔がまた蓬莱よりマンガなるものをお届けになったのではと思った。
しかし、主上はマンガではなく、水禺刀の青い光に見入っておられた。
浩瀚さんの気配に気づいて、主上は慌てて見ていたものを消そうとしたが、裏切り者の水禺刀は浩瀚さんの目の前で ―もう一回?― と表示した。
浩瀚さんはゴンと刀を叩いてOKした。
START!
その中で見たものは、まず、これが例のテレビなるものと思われるところに映るなぜか「浩瀚」
目鼻は線でめんどくさそうに書かれており、上目使いでめちゃ目つきが悪い。妙に顔に陰なんかついちゃって絶対胡散臭い。自分だったらこんなのは絶対雇わない。しかも新米の下官だって着ないようなぺーらぺらの官服を着ていた。
それに対して延王が立派でさりげにかっこよいのはまあしょうがないが、許せないのは、あの昇紘が男盛りで男前、貫禄たっぷりで格好いい。あの強欲郷長の体重がいつ半分になったんだ、ぶちぶち。
そして書物と思われるものが書物の店に山積み状態。
表紙には……、拙は出ていない。ふん。
さらに驚くべきは黒や銀色の硬そうな箱を使って婦女子が読みふける、我らが物語り。
十二国一有能で怜悧な冢宰 ――ふふっ
文字もわからぬ陽子に手を添えて書を教える ―――むふふっ
聞き覚えのある面々と主上の恋の手助けをする
―――ん、誰がわざわざそんなことを
また反対に、それらをことごとく蹴散らす我が姿 ―――よっしゃー
あげくに自分が主上を相手に、あーんな事、こーんな事
―――どきっ、まだお手に触れただけなんだけど。我が心に気付いた者がいたのか。畏れ多くてショック。しかし、ゴックン。この技なんかはまだ使ったことがない、参考にしよう
やがて水禺刀が青い光を収めると、某国営放送の貧しきアニメ予算では到底描き表せぬほどにビューティフルでクールでラブリーな浩瀚さんは、黒い箱でお墨付きのその美しい指で恥ずかしげに震える玉体を絡め取り、顔をお近くに寄せて訊いた。
その前にまずはドアップの迫力に加えてふっと甘い息を吹きかけて、ちょっと主上をくらくらっとさせておいてから―――ふふっ、技では箱なんぞには負けないぞ。
――わたくしは主上の思うままにお仕えいたします。どのような私がよろしいでしょうか。三択でお答え下さい
壱: アニメ顔になる
弐: 主上の恋のお相手をすべて追い出す
参: あーんな事、こーんな事など不埒狼藉を働く
なぜ選択肢がそれだけしかないのかと問いただそうとしたが、ふっ、にくらっと来ていた純情可憐な主上は思わず、*と答えてしまい、(私、昔から三択苦手だったのよね、と後悔したが)忠実な臣は心から「御意」と答えた。
へっへっへ。
おしまい
初出 2004 5/28 凍結果実さま 朱衡さんフェア掲載