その、はにかんだ微笑は誰に向けられているのか、若き女王の美しき姿。
笑みの先にある者は気づかぬそぶりをする。
「景麒、どうしたんだ。その花。」
大輪の白く美しい花を、両手に抱えて景麒は正殿に現れた。
珍しい事だと陽子は思う。
「英州の里家から、主上にと、」
「ならば、景麒がわざわざ持ってこなくても女官か、誰かを頼めば良かったじゃないか。」
手近に置いてある花器を手にしながら百合の花をもてあます景麒に言う。
「女官達は、忙しくしていたものですから。」
「言い出し、そびれたの。」
「はい。」
では、二人でいけようと小さく返す陽子に頷き返す。
「真っ白な百合だね。景麒。」
「美しく咲いたものだと思います。」
「うん。」
「主上に、とても良く似合う花だと」
景麒の思わぬ言葉に、陽子は一瞬、呆然としたが言葉を返した。
「何を言っている、お前が花を抱えて正殿に入ってきた時は、この世の者とは思えない光景だったぞ。この白い百合は景麒に良く似合っている。」
冗談とも本気とも思えない言い様。
「せわしく働いてくれていた女官達に感謝だな。良いものを見た。」
「主上。」
しばらく、二人は花器に見あうように百合をいける事に専念した。
豪華な花器が霞むほどの存在感で咲き誇る花。
まさに王の花に相応しいと景麒は思う。
白い大輪は陽子の赤い髪、緑の瞳を際立たせていた。
「景麒。やはり百合は私には不釣合いだよ。私は、こんなに清らかで無いのだから。」
白の花びらに、透明な雫が落ちた。
「主上。」
陽子の様子を伺おうとする景麒。
「何でもない。何度も言う様だけど、百合はお前にとても良く似合うよ。」
瞳を濡らした陽子が景麒を見上げる。
涙の痕。
陽子の頬に、ひとすじ、光の痕がある。
その先、大輪の花びらに透明な小さな雫が零れ落ちていた。
「主上。」景麒の戸惑う声が空中をさまよう。
「すまない。あまりに景麒が優しいから、」
「私は、何も・・・」
俯く陽子に、かける言葉を捜す景麒。
白の大輪は陽子の涙から生れ落ちたかのように、俯き加減で二人の様子を、そっと見つめていた。