2 語り プロローグ 2

どうして別れたのかと聞かれてましても、そもそもどうして夫婦になったのかすら、今となっては解りかねるのでございます。

淡々と浩瀚は語った。
陽子の膝で眠っている伽羅色の頭を見つめながら。
その目の前で小さな手がふと動いて何かを求めるように探り、抱かれていることを確かめるかのように陽子の衣を掴んだ。


本当に短い時しか共に過ごしておりません。
もちろん敵に知られてはならないので夫婦になったことは秘密でした。

あの明日がどうなるか解らぬ日々、私たちにそれが必要だったとしか。

ただ、子が授かった事はずっと不思議と思っておりました。
将来もなく自分たちの命すら守れぬのに、なぜ天帝がお許しになったのか。
きっとお許しは出ないと思い、相手の望むまま帯を結んだのでございますが。

人は愚かとわかっている事しかせぬ場合があるのですね。

久々にやっと里木へ行った時、すでに一緒にそれを見る相手はおりませんでした。
慶を去り、後にあちらで新しい相手にも恵まれて幸せだと聞きました。

まさかと思いましたが、それでも実は大きくなっておりました。
一人実を持ち帰り、しかし、まだまだ落ち着かない国でまた敵の多い地位になった私に出来ることは、なるべく私から離して育てることだけでございました。

気になって会いに参った事もございましたが、手元に置くのが幸せとも思えず、やはりそのままにしておきました。


こうして主上のお膝にいるのを見ると、天帝になにかお考えがあったのかという気がして参りました。

その子がお遊び相手になるなら、どうぞお手元に。
生まれる前から幸薄い子でございますので喜ぶかと。
私には出来ないことでございます。

ただ、主上にとって弱みにもなる事と案じます。それを恐れます。

ここに留まる限り、私の子であることは忘れましょう。
子を献じて政を動かしたと思われてはなりません。
まだそれに耐えられるほどこの朝は強くございません。

父と呼ばないように、子とは思わぬから、と言ってやって下さいませ。


礼をして、衣の音も立てず浩瀚は去った。

陽子は、母を知らず父のない子を見下ろした。

初出 2004.04.20 Albatross小説掲示板

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