6 女王さま

 

今夜の主上はまるで女王さまのよう、って変かな。だって主上は慶の女王さまなんだから。

豪華な御衣装を何枚も何枚も重ねて、紅い御髪も結い上げてたくさんの飾りが付けられていた。大切なお客様があって、これから宴があるんだって。

お忙しくされていたはずだけど、ぼくの臥室を覗きに来てくださった。衣装が重そうで、よっこらしょと御衣装にあんまり相応しくない事を言って笑いながらぼくの臥牀の枕元に座られた。

主上のお側にいるようになって、夜はそんなにいやじゃなくなった。ご一緒に過ごせた後は本当にいい夢が見れる。なぜかたいていはいい夢だった、ということしか覚えていないのが残念だけど。

でも、こんなのはいや。
抱きしめて下さっても、たくさんの御衣装にじゃまされて主上かどうかわからない。いつもはもっともっと暖かくって柔らかい胸で抱きしめて下さるのに。おまけに香がきつくて、主上のいい匂いがわからない。


しかも、あの人が主上をさらいに来た。

僕たちを見下ろすように立つと、
「そろそろお時間です」と言った。

まだ、何もお話ししていないのに。
でもあの目がぼくをちらりと見たので何も言えない。

主上は頷くと、伸ばされた手に掴まり立ち上がられた。

いつもだけど、その手に掴まるとなぜか軽々と立ち上がられる。おひとりだとよっこらしょなのに。それに他の誰の手でもだめなのに。
ぼくはその手の魔法の秘密を見つけようといつもじっと見るんだけど。

立ち上がってから主上はぼくの方に屈まれた。
ぼくのいっとう好きな瞬間。

でも、あ、紅をつけているんだった、と呟いて、ただ優しく頭を撫でて下さって、ポンポンと衾の上を叩かれた。

そして行ってしまわれる。

「ありがとう、浩瀚。一人じゃここまで来るのも大変で。今日の衣装は特に重くて」

そう言いながらあの手に掴まって、そして腰に添えられたもう片方の手に支えられて歩く後姿は本当に女王さま。
でも、でも、ぼくは女王さまらしい主上でないほうがいい。

だけどいつかぼくの手も魔法の手になったら、やっぱり女王さまになって欲しい。

魔法の手、魔法の手

たぶん、今夜の夢は……

初出 2004.04.28 Albatross小説掲示板

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